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部長のはなし2014/07/04 (金) 16:25:01
とある部長の話
 あの夏、不思議な体験をした。
 私自身、四国随一の進学校「愛光学園」への進学を望んでいたし、親も大いに賛成していた。しかし模試の結果をみれば合格率は20%。これは下限の数字だ。もともと生まれつき頭は良くない方だったし、所詮中学受験なんて生まれつきの頭の良さがすべてだろう。おまけに今は小6の夏。努力で挽回できる時期でもない。志望を変更するのしか無いのか……
 セミがうるさく鳴いている中、教材をぎゅうぎゅうにつめたリュックサックを背負って塾の夏期講習へ向かっていたはずだった。通い慣れた道のはずなのに、暑さのせいかついぼーっとして、見知らぬ道へ迷い込んでしまった。人気のない細い道だった。家屋の屋根の陽炎が幻想的な空間を演出している。道を進んで行くと、道の脇に立っている老人がいた。私は不思議と何の不審感も抱かずにその男性に話しかけた。
「暑いですけど、こんなところに立っていて大丈夫ですか」
私は小6の身長にしては標準的な155cmだったが、その男性はそれよりも低かった。
「愛光学園に合格したいかね」
「えっ」
何を言っているのだ、この人は。なぜ志望校を知っている。
「君の身長を1cmくれれば、愛光学園に合格させてやろう」
「……」
確かに怪しかった。しかし何故かこの老人を信用して良い気がした。
「合格、したいです」
「交渉成立じゃな。では身長を1cmもらうぞ。ついでに貴様の成長は止まる」
「えっ——」
発言し終わる前に意識が薄れて、気がついたら塾の前に立っていた。
 結局、模試の成績はずっと悪かったが、愛光学園には合格した。先生や家族、友人からは奇跡のように扱われた。それでも嬉しかった。身長を測ってみると確かに155cmから154cmになっていた。それ以来伸びることもなく、高3の夏がやってきた。大学受験の季節である。部活の先輩は皆、有名大学へ進学しているし、後輩の手前、それなりの大学に合格しないと格好がつかない。しかし入学以来ずっと校内順位は200番台だったため、それは絶望的だった。
 側からみても相当醜い顔になっていたと思う。成績不良と勉強漬けの毎日ですっかり参ってしまっていた。今日も演習だらけの授業を受けて、部室にも寄らず寮へ帰っていたら、暑さでついぼーっとして、よく知らない道へ辿り着いてしまった。
「ああ、はやく寮に帰って勉強しないと……」
相当疲れているらしい。寮に帰ることだけを考えて道を進む。するとそこには老人が立っていた。……デジャ・ヴュ?
「早稲田大学へ合格したい……です!」
無意識に老人に懇願していた。
「よかろう。ではまた身長を1cmもらうぞ!」
「……」
気が付くとそこは寮前だった。妙な安心感を感じながら、私は帰寮した。
 そして私は早稲田大学に合格した。先生、親、後輩、みんなから奇跡扱いされた。親友のセブンは浪人したらしい。
 大学生活は楽しい。そして私は身長を測る。きっちり153cmになっていた。
記事番号: No.58  ジャンル: うれしい知らせ  執筆者: a

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